「相続財産」(あるいは「遺産」)とは、家や貯金などのプラスの財産(≒積極財産)だけではなく、借金というマイナスの財産(≒消極財産)のことも含まれた、被相続人(亡くなった方)が遺したものすべてのことを指します。ただし、墓地などの祭祀に関係するものや、受取人指定のある生命保険金、そして扶養請求権など、一部遺産に該当しないものもあります。そのため、まずは遺されたものが「遺産」に該当するかどうか、見極めが必要となります。わかる範囲で、ご自身で一度「相続財産の一覧表」を作成されることをお勧めします。
ところで、この相続財産とは、誰のものなのでしょうか?
たとえばAさんが亡くなったとします。Aさんには、妻のBさんや子どもCさん、子どもDさんがいました。亡くなる際、家や、貯金、沢山のプラスの遺産をAさんが持っていたとしても、それは生前までは「Aさんの所有物」であって、亡くなってしまってからは、それぞれの財産は、相続人ら(ここでいうBさん、Cさん、Dさんのことです)の共有状態になります。ところが、相続人が2名以上いる場合、何もかもが共有では、処分するときにわずらわしさが伴い、個々の相続人が自由に動くことができません。
当事務所では、そのようなわずらわしさを払拭すべく、相続手続を段階を踏んでサポートさせていただきます。
■ 自筆証書遺言(遺言者自らが作成した遺言書)の場合
自筆証書遺言書の場合、平成31年1月13日より、民法改正による方式緩和に伴い、財産目録以外の遺言書本文(日付、名前含)は全て自書・押印となりました。財産目録については、通帳のコピーや登記事項証明書で代用できようになりましたが、すべてのページに遺言者の署名・押印が必要であり、本文を含めてページ数は自書でする必要があります。
遺言者の好きな場所、好きな時間に書くことができますし、お金もかからないため、自分で作られる方も多数いらっしゃいます。
この遺言書を使って手続きをされる場合、遺言書検認申立て手続を必ず経なければなりません。検認手続きというのは、相続人たちに遺言書の存在及び内容を知らせるとともに、今ある遺言書が、後に偽造・変造されることを防止するために、家庭裁判所のお墨付きをもらうという趣旨です。ただし、形式的なお墨付きであり、遺言書の中身が有効であることの保証にはなりません。(実質的な中身の有効性にまで、家庭裁判所のお墨付きがもらえるというわけではないということです。)
なお、遺言者自らが作成した遺言書を使って、土地や建物の名義変更をするには
① |
遺言書の中身が、登記申請をするに際して有効なもの(有効な文言を使っているもの)でないといけない。 |
② |
検認手続きを踏まえたものでないといけない。 |
この二段階の問題点を、クリアする必要性があります。個人で、この二段階の問題点を超えるのはなかなか難しいことです。
特に①については、解釈の問題がありますので、当事務所をご利用いただければ、円滑に処理させていただきます。
令和2年7月10日より、「自筆証書遺言の保管制度」が始まりました。この制度を利用した遺言書については、検認手続きは不要となります。
■ 公正証書遺言(公証役場で作成した遺言書)の場合
公正証書遺言の場合、証人2名(証人には、誰でもなれるわけではありません)の立会いの下、公証人が作成し、さらに作成した公証役場において、原本が一定の期間保存されることになるため、偽造・変造の恐れがありません。遺言者には、正本と謄本が交付されます。この後、相続人のうちの誰かに、公正証書遺言を作成したから、とお知らせしておくことで、遺言書の存在を認識しておいてもらいます。自筆証書遺言とは異なり、検認手続きは不要です。
公正証書遺言を作成するには、名前のとおり、一般には、公証役場へ赴いて作成することになりますし(遺言者や相続人の住所に関わらず、全国どこの公証役場でも作成できます)、作成費用も一定の金額(公証役場への手数料/目的財産の価額が算定不能の場合には、一律500万円とみなし、手数料は11,000円)を要します。
相続人が手続きをされる際、検認手続きや、場合によっては、遺言執行者選任申立手続きという手間を省くことができ、スムーズに手続きを進めやすい点は公正証書遺言にあります。公証役場への遺言文書(案)や証人立会につき、当事務所をご利用いただければ、「争族」問題に至るまでの問題点についても、あわせて支援させていただきます。
遺言書がなければ、相続人同士の間で、まずは話し合いをして考えます。
法律では、公平な分配ができるように「法定相続分」が定められていますが、必ずしもこれに拘束されるものではありません。相続人全員の合意があれば、自由に遺産を分けることができます。これを、「遺産分割協議」と呼びますが、協議分割と言えども、やはり「公平」に分けるようにすることが大切です。なお、協議のやり方は様々ですが、いずれも裁判所を通してしかできないものではありません。
◆◆遺産分割のやり方◆◆
① 「現物分割」
遺産分割協議の中で一般的に使われる分割方法です。
具体的には、「土地はA子さんが取得して・・・建物はB男さんが取得する」 というように、遺産そのものをざっくりと分けてしまうことです。
この方法を採ることで、後に不動産を誰かに売却、あるいは、贈与しようとしても、取得した人自身の意思で、自由に譲渡先を決めることができます。
② 「代償分割」
法定相続分を基準として、各相続人が取得すべき相続分を超えることのないよう調整するやり方です。たとえば、お父さんが亡くなった後の相続人がお母さんとD子さんの2人だったとしましょう。そのような相続関係の中、お母さんが亡お父さんの遺産のうち、土地全てを取得し、その結果、お母さんが取得すべき相続分を遥かに超える協議内容となった場合、それは、お母さんとD子さんとの間で、相続分に格差が生じてしまっているのです。 相続人の一人が、相続分相当以上のものを取得した場合、他の相続人に対して、何らかの形でフォローして格差を埋めるやり方がこの方法です。「土地をお母さんが取得する代わりに、D子さんには500万円支払う」というように、実務では、代償として、お金を配分するのが主流です。
③ 「換価分割」
現物分割することが適当ではない種類の遺産については、売却して、お金に換えて、それを相続分に応じて分配するやり方です。実は、近年、この換価分割というやり方が増加傾向にあります。子供たちも独立し、夫婦二人で暮らしていた田舎の一戸建だけが遺産として残された場合、プラスの財産だけなのだから問題ないのではと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は不動産を持つにも、少なからず維持費(固定資産税等)がかかります。特に地方の地域であればあるほど、一軒家だけが遺産と思っていたのに、後から、地目が田畑や山林などの土地が多数出てきた、ということも少なくありません。問題は、誰がこれらの土地を管理していくかです。農業に従事し、近隣に住む子供であればまだしも、田畑を沢山持っていても、遠方に住んでいるしどのように管理していいのかわからない、あるいは、持っていても修理費や維持費が所有者負担なら、手放してしまったほうが楽だという考えを持つ相続人も少なからずいらっしゃいます。仕事や毎日の生活の傍ら、なかなか農業・林業を副業として営むことが難しい現代だからこそ、この分割の需要が増えつつあります。
協議を試みても、財産絡みになると「争族」になってしまう、相続人のうち一人が何処かに行ったまま帰ってこない、あるいは、相続人のうちの一人が認知症を患っていて協議ができない、さらには相続人のうちの一人に未成年者がいる場合など、協議をするにあたって様々な問題が浮上してくることもあります。
当事務所では、そのような事案に対しても、必要な手続きを踏まえてしっかりとサポートさせていただきます。
① 遺産分割調停
ドラマなどで、裁判官を中央に、法廷内で原告・被告が弁論を繰り広げるイメージとは違います。そもそも「調停」であり、誰かを「訴える」わけではありません。調停委員、家事審判官を交えて、別室にて、相続人個々の言い分を聴取し、和解(中間合意)できることを目指していきます。それでも、和解することができなければ、「審判」という形で、裁判官の判断で命令を下していただきます。司法書士は、代理人として調停に参加することはできませんが、申立書類作成から調停調書(審判書)に至るまで、当事務所では法的アドバイスでもって支援させていただきます。また、調停成立(審判)後には、調書(審判書)に基づく手続き(不動産があれば、名義変更手続き、預貯金があれば名義書換え・払戻手続など)も承ります。段階的サポート体制ですので、ここまではお願いして、ここから先は自分でやる、という形式で当事務所をご利用いただくこともできます。
② 不在者財産管理人選任申立
相続人のうちの一人が、実際に何処に住んでいるのか不明な場合、遺産分割をしたくても物理的に不可能です。その一方で、たとえば、よくある事例ではありますが、子供の教育費や親のホーム入所への頭金としてまとまったお金が近日中に必要な時期が目前に差し迫っている場合、探しても見つからないものを、見つかるまで遺産分割協議できません、というのでは、あまりに酷です。そこで、行方が不明な相続人に「財産管理人」を選任し、管理人には、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加(別途、裁判官からの許可を得たうえでです。)していただきます。そうすることで、遺産分割ができない、という不都合を払拭することができます。
③ 特別代理人選任申立
相続人のうち、未成年者がいる場合、共同相続人である父(母)はその子(未成年者)の法定代理人として遺産分割協議に参加することができません。仮に親権者が代理人として協議に参加しても、それは無権代理行為となり、原則として、子(未成年者)に遺産分割協議の効力は及びません。親と子の利害が対立する恐れがあるからです。この場合、協議に透明性を持たすため、別途、子(未成年者)のために「特別代理人」を選任することになります。
相続人だからこそ使える制度、それが「相続放棄」という制度です。
相続人になりたくない!と思ったときに相続人が使うことのできる法律上の制度は、「相続開始後」でなければ使うことはできません。また、遺産分割とは異なり、必ず裁判所を通さなければならない手続きです。この「相続放棄」を使うことで、民法上、最初から相続人ではなかったと看做されますので、プラスの財産もマイナスの財産も相続することがないのです。ただし、手続きを使う際には、「自分が相続人であることを知ったときから3ヶ月」という期間制限が設けられております。人が亡くなってからの3ヶ月、これは本当にあっという間に過ぎてしまいます。そのため、たとえば、3ヶ月経過してから借金が見つかったのに、相続放棄ができない?というご相談もよく寄せられます。3ヶ月という期間がいつの時点を起算点(はじまり)とするかは、解釈の問題でもあります。そして、それを裁判官が納得できるように、申述人(相続放棄しようとする人)が説明していかなければなりません。
当事務所では、やむを得ない事情としての3ヶ月経過後の相続放棄手続きについても精通しておりますので、是非ご相談ください。